「ここが山岡県立西商業高校か。」
校門の周りには桜が咲いている。校門をくぐると、すぐに駐車場があった。適当なスペースに車を止める。
グラウンドから元気な声が聞こえる。おそらく野球部だろう。確か、ここの野球部は去年甲子園に出場したと聞いた。なるほど素晴らしいエネルギーを感じる。
季節は春だが、まだ少し肌寒い。足早に来客用の入り口まで移動した。
今日から、私の職員生活が始まるのだ。
「あなたが黒沢信吾君
升學顧問ですか。よく来てくれました。私は校長の土師といいます。」
「お見知り置きありがとうございます。今日からこの西商業高校に努めさせていただく黒沢です。よろしくお願いします。」
校長は豊かな白ひげを蓄え、薄い目でにこやかな表情を作っていた。その風貌はとあるファストフード店のマスコットを思わせる。
学校に入るとすぐに校長室に案内された。校長室には様々なトロフィーや賞状が飾っており、すこし重々しい雰囲気を感じて緊張したが、校長の柔らかな雰囲気がすぐそれを打ち消してくれた。
「まだ寒いですが、グラウンドの方が元気ですね。先ほども野球部の元気な声が聞こえていました。」
「そうでしょうそうでしょう。我が校の野球部は強豪ですからな。…野球がお好きなのですか?」
「まあ、少しは。」
「そうですか。スポーツはいいものでしょう。我が校は野球部だけでなく、バレー部も去年は県大会準優勝です。他に、ソフトボール、陸上、卓球、テニスなどでも県内で優秀な成績を残しております。公立高校としては、誇らしい限りです。」
「存じ上げております。部活指導
旺角通渠に力を入れているのだなと思っておりました。」
「ええ。…しかし、我が校にもずっと弱小の部活があるのです。あなたには、そこの顧問になっていただきたいと考えているのです。」
初耳だった。私はこの高校に来る前は山岡県内の中学校で三年程教えていたのだが、部活の顧問などあまりやる気がなかった。しかし一応人手の問題で、活動の少ない美術部の副顧問をやらされていた。そんな私が、何かの
尖沙咀通渠部活の顧問としてスカウトされたのか?そんなこと、考えもしていなかった。
「私が部活動の顧問に?…ええと、それは一体何部なのですか?」
校長は、細い目を一層細くして言った。
「男子バスケットボール部です。」
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